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Maserati 3500 GT——レースから市販車へ、トライデントを救ったツーリング製アルミボディ

マセラティは長くレースの世界を生きてきたメーカーでした。その姿勢を大きく変えたのが3500 GTです。1950年代後半、競技活動の縮小を余儀なくされた同社は、市販グランツーリスモの本格生産へ舵を切ります。この一台がなければ、トライデントの紋章は歴史の中に消えていたかもしれません。

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レーシングエンジン由来の直列6気筒

3500 GTの心臓は、3.5リッター級の直列6気筒です。各シリンダーに2本のプラグを備え、カムシャフトを2本持つ設計は、同社のスポーツレーシングカー用ユニットの流れを汲みます。公称出力はおよそ220馬力とされ、当時の市販車としては十分に強力でした。

注目すべきは1960年代初頭に追加されたインジェクション仕様です。英国製の機械式燃料噴射を採用し、イタリアの市販車としては早い時期の実用例となりました。ほかにも五段変速機や四輪ディスクブレーキが順次採用され、生産期間を通じて着実に近代化が進められています。

「作る会社」への転換

1950年代のマセラティは、グランプリでも耐久レースでも高い戦績を残していました。しかし競技活動には莫大な資金が必要で、経営は決して安定していません。1950年代末に競技活動を大幅に縮小した同社は、生き残る道として市販車の量産を選びます。

3500 GTはその決断の産物でした。それまでのマセラティは、注文に応じて少数を仕立てる存在です。対してこの車は、ある程度の台数を継続的に作ることを前提に企画されました。会社の性格そのものを変える一台だったのです。

スーパーレッジェーラという車体構造

クーペのボディを担ったのはミラノのツーリング社です。同社が特許を持つスーパーレッジェーラ構造は、細い鋼管で骨格を組み、その上に薄い軽合金のパネルを張るという方法で、軽さと形の自由度を両立させました。

オープンのスパイダーはヴィニャーレが手がけ、クーペより短い車体で軽快な印象を与えます。同時代のライバルはフェラーリの250系やアストンマーティンのDBシリーズでしたが、3500 GTは速さを競うより、長距離を優雅に移動する性格を明確にしていました。

主要スペック

仕様変更が多い車のため、代表的な値を挙げます。

項目内容
エンジン形式直列6気筒 DOHC(ツインプラグ)
排気量約3.5リッター
最高出力およそ220馬力(公称値)
燃料供給キャブレター/後年は機械式燃料噴射
駆動方式フロントエンジン・後輪駆動
ボディクーペ:ツーリング(スーパーレッジェーラ)/スパイダー:ヴィニャーレ
生産年1957年ごろ〜1964年ごろ
生産台数およそ2000台以上とされる

コレクターズガイド:軽合金ボディという難所

3500 GTを選ぶうえで最大の注意点は車体です。鋼管の骨格に軽合金のパネルという構造は、異種金属が接する部分から腐食が進みやすく、修復には専門の技術が要ります。表面の見た目だけで判断せず、下地の状態まで確認したいところです。

機関部は比較的頑丈ですが、二本ずつあるプラグの管理や、噴射仕様であればその調整に経験が必要です。スパイダーは台数が少なく、注目度も高い傾向にあります。長く付き合うなら、この年代のマセラティを継続的に扱っている工場を見つけることが何より重要です。

マセラティ兄弟とトライデント

マセラティは1914年、ボローニャでマセラティ兄弟によって創業されました。紋章のトライデントは、ボローニャの広場にあるネプチューンの像に由来すると言われます。兄弟はレース用の車を作り続け、1930年代には国際的な勝利も収めました。

のちに経営権はオルシ家へ移り、拠点はモデナへ。3500 GTが生まれたのは、まさにこのモデナ時代です。以後マセラティは、レースの技術を市販車に映す高級グランツーリスモのブランドとして道を歩んでいきます。

レースの記憶と現在

マセラティは1950年代のF1で頂点に立ち、名手が駆るマシンとして記憶されています。その競技活動の縮小と入れ替わるように登場したのが3500 GTでした。つまりこの車は、レースの終わりと市販車の始まりをつなぐ結節点にあたります。

現在のマセラティは高級スポーツブランドとして活動を続け、近年は競技の世界にも改めて関わりを持ち始めました。長い歴史の中で幾度も所有者と方向性が変わりながら、トライデントが消えなかったのは、3500 GTが会社を支えたからにほかなりません。

よくある質問

クーペとスパイダーはどう違いますか

架装したメーカーが異なり、スパイダーは車体が短く軽快な印象です。生産台数はスパイダーの方が少ないとされます。

燃料噴射仕様は選ぶ価値がありますか

当時としては先進的で、歴史的な意義があります。ただし調整には経験が要るため、整備できる工場の有無が判断材料になります。

どのような走りの車ですか

鋭さより落ち着きが際立つ性格です。長い距離を余裕をもって移動するグランツーリスモとして設計されています。

部品の入手は可能ですか

機関部は専門業者を通じて対応できる範囲が広い一方、外装や内装の専用部品は入手に時間がかかることがあります。

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Author of this article

クラシックカー専門ライター。自動車雑誌の編集部に12年在籍し、欧州車・国産旧車の取材を担当。独立後はイタリア・英国のクラシックカーイベント取材やオーナーインタビューを重ね、これまでに試乗・取材した旧車は300台以上。愛車はアルファロメオ ジュリア スーパー(105系)と、レストア中の国産旧車1台。「名車の物語を、次の世代に手渡す」をモットーに、スペックの羅列ではなく“そのクルマが生きた時代”まで伝える記事を心がけている。

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