MENU

Lancia Delta HF Integrale——WRC連覇を支えた四駆の完成形、量産ハッチが伝説になるまで

実用的な5ドアハッチバックが、世界ラリー選手権を支配する。いま考えると信じがたい話ですが、1980年代末から90年代初頭にかけて、それは現実でした。ランチア・デルタHFインテグラーレは、市販車をベースに戦うグループA時代を象徴する一台です。

TOC

四輪駆動とターボが生んだ速さ

インテグラーレの核心は、縦置きではなく横置きの4気筒ターボを四輪駆動と組み合わせた機構にあります。センターデフには粘性結合を用い、前後の駆動配分を状況に応じて変化させました。後輪側にもトルク感応式の差動制限機構を備え、滑りやすい路面でも駆動力を無駄なく路面へ届けます。

エンジンは2リッター級で、初期は1気筒あたり2本のバルブ、のちに4本のバルブを持つ仕様へ進化しました。出力は世代ごとに高められ、最終期には200馬力を超えます。数値だけ見れば突出していませんが、四輪でしっかり路面をつかむ設計が、あらゆる路面での速さを生みました。

ラリーで勝つために進化を重ねた

デルタはもともと1970年代末に登場した実用ハッチバックで、ジウジアーロによる端正な造形が評価され、欧州の年間最優秀車にも選ばれています。そこへ高性能版が加えられ、さらに四輪駆動が与えられ、最後にはラリーで勝つための改良が積み重ねられました。

転機となったのが、車幅を広げて足まわりの許容量を高めたエヴォルツィオーネです。前後のフェンダーは大きく膨らみ、実用車の面影は残しつつも明らかに戦闘的な姿になりました。競技で必要になった変更を市販車に反映する。グループAという規則が生んだ、幸福な循環です。

同時代のライバルたち

同じ舞台では、日本勢の四輪駆動ターボ勢が力を伸ばしつつありました。トヨタ、そして少し遅れてスバルや三菱が参戦し、90年代半ば以降の主役となっていきます。ランチアはそれらと真正面から戦い、連覇を積み重ねました。

興味深いのは、ランチアが早い段階で競技の第一線から退いたことです。強さの絶頂で舞台を降りたため、インテグラーレには「無敗のまま去った」という印象が残りました。この引き際も、伝説を形づくった要素のひとつでしょう。

主要スペック

世代により内容が異なります。代表的な値を挙げます。

項目内容
エンジン形式直列4気筒 DOHC ターボ(横置き)
排気量約2.0リッター
最高出力およそ185〜215馬力(世代により差があります)
駆動方式フルタイム四輪駆動
駆動配分粘性結合式センターデフ+後輪トルク感応式差動制限
変速機5段マニュアル
ボディ5ドアハッチバック
生産年1987年ごろ〜1994年ごろ

コレクターズガイド:世代の違いを理解する

一口にインテグラーレと言っても、8バルブ、16バルブ、エヴォルツィオーネ、そしてその改良型と、性格の異なる世代が存在します。素直で軽快な初期型を好む人もいれば、迫力ある姿と実力を備えた最終期を選ぶ人もいます。まずは世代ごとの違いを把握することが出発点です。

状態面で最も注意すべきは腐食です。フロア、リアの足まわり周辺、そしてフェンダー内側は入念に確認してください。加えて、四輪駆動機構と過給まわりの整備履歴が残っているかどうかが重要になります。競技に使われた履歴のある個体も存在するため、書類の確認は欠かせません。

ランチアという技術者集団

ランチアは1906年にトリノで創業しました。創業者ヴィンチェンツォ・ランチアはレースドライバーでもあり、技術への探究心が社風の根幹にあります。独立車体構造や狭角V型エンジンなど、量産車の常識を先に進める発明を数多く生み出してきました。

デルタの四輪駆動機構も、その延長線上にあります。奇をてらうのではなく、必要だから作る。ランチアの技術には常にその実直さがありました。

ラリーの記憶と、ブランドの現在

ランチアはフルヴィア、ストラトス、037、そしてデルタと、時代ごとに異なる方法でラリーを制してきた稀有なメーカーです。デルタでの連覇は、その最後にして最も長い黄金期にあたります。青と白を基調とした車体は、いまも多くの人の記憶に残っています。

その後ランチアの製品群は縮小し、長く限られた市場向けの存在となりました。近年は再び活動範囲を広げる動きも見られます。デルタが遺した遺産は、いまも同社の名を支え続けています。

よくある質問

HFとは何を意味しますか

ランチアが古くから高性能仕様に用いてきた呼称で、象のエンブレムとともに使われてきました。

8バルブと16バルブはどちらがよいですか

軽快さと素直さでは8バルブ、動力性能と迫力では16バルブ以降が優ります。用途と好みで選ぶとよいでしょう。

日常でも使えますか

ベースが実用ハッチバックのため居住性は十分です。ただし年式相応の維持管理は前提になります。

維持で気をつける点は何ですか

車体の腐食、四輪駆動機構、そして過給まわりです。整備の記録が残り、継続的に手を入れられてきた個体を選ぶことが最善の対策です。

Let's share this post !

Author of this article

クラシックカー専門ライター。自動車雑誌の編集部に12年在籍し、欧州車・国産旧車の取材を担当。独立後はイタリア・英国のクラシックカーイベント取材やオーナーインタビューを重ね、これまでに試乗・取材した旧車は300台以上。愛車はアルファロメオ ジュリア スーパー(105系)と、レストア中の国産旧車1台。「名車の物語を、次の世代に手渡す」をモットーに、スペックの羅列ではなく“そのクルマが生きた時代”まで伝える記事を心がけている。

TOC