1972年秋のパリ・サロン。ポルシェはある一台の車を展示した。標準の911に比べて軽量化されたボディ、拡大されたリアフェンダー、そして「Carrera RS」の文字。ホモロゲーション(レース参戦資格取得)のためだけに作られる予定だった500台のスペシャルモデルだったが、展示開始から数日で予約台数が500台を突破した。
RS——「Rennsport(レースカー)」の意味
「RS」はドイツ語で「Rennsport(レーシングスポーツ)」を意味する。カレラRS 2.7はFIAグループ4規定に参戦するためのホモロゲーションモデルとして設計された。フェンダーを広げた「アヒルのしっぽ」型のリアスポイラー(デュックテール)は機能的なダウンフォース発生装置で、後の911に多大な影響を与えた。
スペック
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 製造年 | 1972〜1973年 |
| エンジン | 2.7L 空冷水平対向6気筒 |
| 最高出力 | 210馬力 / 6,300rpm |
| 変速機 | 5速MT |
| 車重 | 900kg(Mスペック軽量型)/ 975kg(Lスペック快適型) |
| 最高速度 | 240km/h |
| 0→100km/h | 5.8秒 |
| 生産台数 | 1,580台(当初計画500台) |

Mスペックとツーリング——二つのRS
カレラRS 2.7には「Mスペック(Mレーサー)」と「ツーリング」の2グレードが存在した。Mスペックはカーペットなし、防音材なし、電動窓なし——スパルタンな軽量仕様。ツーリングは快適装備を備えた公道向け仕様で重量は若干増す。今日ヒストリック市場でより価値が高いのはMスペックだが、当時は快適なツーリングが多く売れた。
レースでの活躍——ヨーロッパGTを制覇
カレラRS 2.7は1973年のヨーロッパGTチャンピオンシップでクラスを席巻した。ほぼノーマルのRS 2.7が、改造を加えたライバルたちを次々と打ち負かした。「市販のポルシェが改造車に勝つ」——この事実はポルシェのレース文化の核心だった。

現代における価値——10倍以上になった投資の神話
1972年当時の新車価格は約34,000マルク(当時の感覚で高価だが、今に置き換えると数百万円程度)。現在の市場価格は1〜3億円超。「最も価値が上がったポルシェ」の一つとして、投資対象としても注目される。
コレクターズガイド:なぜ今も価値があるのか
クラシックカーの価値は単なる希少性だけでは決まらない。歴史的意義・機械的完成度・デザインの普遍性・来歴(プロヴェナンス)——これらが揃った車だけが時代を超えて評価され続ける。
現代の電動化・自動化が進む自動車産業において、エンジンの轟音と機械的な操作感を持つクラシックカーへの需要は逆に高まっている。ペブルビーチ・コンクール・デレガンス、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードなどの国際的なイベントでの人気は衰えを知らない。
投資対象としての側面も無視できない。過去20年間で希少なイタリア製・イギリス製クラシックカーの価値は平均して年率10〜15%上昇しており、株式や不動産を上回るリターンを記録した車種も多い。ただし維持費・保管環境・整備記録の管理が資産価値の維持に直結することを忘れてはならない。