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Volkswagen Scirocco(初代)——ゴルフより先に世に出た、ジウジアーロの熱風

Volkswagen Scirocco(初代)の外観

シロッコという名は、サハラから地中海へ吹き上げる熱風に由来します。空冷リアエンジンの時代を閉じ、水冷・前輪駆動へ舵を切ったフォルクスワーゲンにとって、この小さなクーペは新時代の先触れでした。しかも登場はゴルフより数か月早い。量産の要となる新型ハッチバックの前に、あえてクーペを世に出したところに、当時の緊張感がにじんでいます。

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前輪駆動の横置きパッケージと、軽さの効能

初代シロッコの骨格は、後にゴルフとして結実するプラットフォームを土台にしています。エンジンを横置きし、変速機と一体にまとめて前輪を駆動する構成は、室内と荷室を最大化する当時の最新解でした。

  • 直列4気筒をボンネット内に横向きに搭載し、前輪を駆動
  • 前はストラット、後ろはトーションビーム式の車軸で軽量かつ省スペース
  • 車重が軽く、小排気量でも軽快に走る
  • ハッチゲートを持つ2ドアクーペで、実用性も確保

排気量はおおむね1.1リッターから1.6リッター級までが用意され、後期には燃料噴射を備えた高出力仕様も加わりました。数字だけを見れば穏やかですが、身軽な車体と正確な操舵が、実際の速度以上の速さを感じさせます。

生産をカルマンに委ねた理由

シロッコの組み立ては、カルマンギアで知られる車体架装メーカー、カルマン社が担いました。基幹車種であるゴルフの生産ラインを自社工場で立ち上げる一方、台数の限られるクーペは外部の熟練に任せる。合理的な役割分担であり、同時にフォルクスワーゲンとカルマンの長い協業関係の継続でもありました。

デザインを手がけたのはジョルジェット・ジウジアーロです。折り紙のような直線と、薄いガラス面、太いCピラーが生むくさび形。装飾を削ぎ落とした構成は、同時期に彼が描いた一連の作品と共通する語法で、フォルクスワーゲンの造形をそれまでの丸みから一気に切り替えました。

同時代のスポーティクーペとの比較

1970年代半ばの小型クーペは、後輪駆動を守る保守派と、前輪駆動へ移る革新派に分かれていました。シロッコは後者の代表格であり、実用車の部品で仕立てながら運転の楽しさを引き出すという方向を示した点で、後のホットハッチの潮流にも影響を与えています。

主要スペック

項目内容(初代・おおよその値)
エンジン形式水冷直列4気筒 SOHC(横置き)
排気量約1,100cc〜1,600cc(仕様により差あり)
最高出力50馬力台〜110馬力前後とされる
燃料供給キャブレターおよび燃料噴射(仕様による)
変速機4速/5速マニュアル、一部に自動変速機
駆動方式フロントエンジン・前輪駆動
ボディ3ドア・ハッチバッククーペ
生産年1974年〜1981年ごろ(初代の生産期間)

コレクターズガイド——なぜ今も価値があるのか

初代シロッコは長らく「ゴルフの陰の存在」と見られてきましたが、近年は評価が明確に変わりつつあります。理由は単純で、良質な個体がほとんど残っていないからです。実用車として使い切られ、多くが失われました。

  • 前後のスクリーン下端、リアハッチ周り、フェンダー内側は錆の要注意箇所
  • 内装のダッシュボードや樹脂部品は割れやすく、程度差が価値を左右する
  • 機関部品はゴルフと共通するものが多く、維持は比較的しやすい
  • 前期の細いバンパーを持つ個体は意匠の完成度が高いとして人気

フォルクスワーゲンの転換期という文脈

1970年代前半のフォルクスワーゲンは、ビートル一本足打法からの脱却という難題に直面していました。空冷リアエンジンの後継を探る試みは何度も行き詰まり、最終的に水冷・前輪駆動へ全面移行する決断が下されます。

その第一走者を、量販ハッチバックではなくクーペに務めさせた。市場に新しい顔つきと新しい走りを予告し、来たるべき主力への期待を高める狙いがあったとされます。実際、シロッコが受け入れられたことは、続くゴルフの成功に確かな道筋をつけました。

その後の系譜と現在

シロッコは二代目へ引き継がれ、その後いったん名前が途絶えたのち、二十年以上の時を経て復活しました。復活版も低く構えたクーペとして仕立てられ、初代の性格は形を変えて受け継がれています。

モータースポーツでも、軽量なボディと前輪駆動の素性を生かしたワンメイクレースやラリーでの活躍が知られています。派手な戦績よりも、「安価で速い車を若者に」という思想を実地で証明し続けたことが、この車の功績といえるでしょう。

よくある質問

Q. シロッコとゴルフはどこが違うのですか?

A. 基本の骨格と多くの機関部品を共有しますが、車体は別物です。全高が低く、着座位置も下がるため、視界と重心の感覚が明確に異なります。荷室の使い勝手はゴルフに譲る代わり、走りの一体感で勝ります。

Q. なぜゴルフより先に発売されたのですか?

A. 生産を外部のカルマン社に委ねたことで、量産ラインの整備を待たずに立ち上げられたためです。新世代の予告編としての役割も担っていました。

Q. 維持で最も気をつけるべき点は?

A. 錆です。特にガラス周りとリアハッチのヒンジ付近は、外から見えにくい場所で進行します。購入前には下回りとハッチ内側を丁寧に確認してください。

Q. 初心者でも扱えますか?

A. 前輪駆動で癖が少なく、機械としては素直な部類です。ただし当時の制動性能と乗員保護の考え方は現代とは異なりますので、運転そのものよりも「余裕を持った使い方」が求められます。

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Author of this article

クラシックカー専門ライター。自動車雑誌の編集部に12年在籍し、欧州車・国産旧車の取材を担当。独立後はイタリア・英国のクラシックカーイベント取材やオーナーインタビューを重ね、これまでに試乗・取材した旧車は300台以上。愛車はアルファロメオ ジュリア スーパー(105系)と、レストア中の国産旧車1台。「名車の物語を、次の世代に手渡す」をモットーに、スペックの羅列ではなく“そのクルマが生きた時代”まで伝える記事を心がけている。

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