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フォルクスワーゲン カルマンギア——ビートルが纏ったイタリアの衣、手仕事で作られた大衆クーペ

フォルクスワーゲン カルマンギア の外観

スポーツカーの姿をしていながら、速さを売り物にしない。フォルクスワーゲン・カルマンギアは、そんな稀有な立ち位置を長く守り続けた車です。中身はビートル、まとうのはイタリアの造形。この組み合わせが、他のどこにもない魅力を生みました。

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継ぎ目を見せない、手仕事の車体

カルマンギアの最大の見どころは、その車体の作り方にあります。当時の量産車はプレスした鋼板を重ね、フランジと呼ばれる縁を残して溶接するのが普通でした。ところがカルマンギアは、パネル同士を突き合わせて溶接し、継ぎ目を丁寧に埋めて滑らかに仕上げています。

この工法は手間がかかります。曲面の多くは職人が叩いて成形し、溶接後の仕上げも人の手による作業でした。結果として、大衆車の部品を用いながら、見た目だけは高級なコーチビルド車に近い品格を備えることになったのです。

速くはない、しかし正しい設計

機械部分はビートルとほぼ共通です。床板構造の車体基部に空冷水平対向4気筒を後方に積み、後輪を駆動する。出力は控えめで、加速性能は見た目から想像されるほどではありませんでした。

しかしこれは欠点というより、企画そのものの選択です。信頼性と整備性が確立された既存の機構を使い、そこに新しい造形と丁寧な仕上げを与える。壊れにくく、どこでも直せて、それでいて所有する喜びがある——大衆車メーカーがスポーティな車を出すやり方として、きわめて現実的な答えでした。

同時代の小型クーペと比べて

1950年代から1960年代にかけての小型クーペには、性能を前面に出したモデルが数多くありました。その中でカルマンギアは、性能競争から一歩引いた場所に立っています。

速さを求める人には物足りない。けれども、日常的に使えて壊れにくく、街の景色の中で美しい車を求める人には、これ以上の選択肢がなかった。デザインで売れた車という評価は、この一台にこそふさわしいものです。

主要スペック

長期生産のため仕様の変遷が大きく、代表的とされる内容を示します。

項目内容
車体設計イタリアのカロッツェリア・ギア
車体製造ドイツのカルマン社
基本骨格ビートル(タイプ1)系の床板構造
エンジン形式空冷水平対向4気筒
搭載位置・駆動方式リアエンジン・後輪駆動
排気量1.2〜1.6リッター級で推移
車体形式クーペおよびカブリオレ
車体工法突き合わせ溶接と手仕上げによる継ぎ目のない外観
生産年1950年代半ば〜1970年代半ば

コレクターズガイド:見るべきは車体の状態

カルマンギアを検討する際、機械部分の心配はあまり大きくありません。ビートル系の部品は今も広く流通しており、整備できる工場も見つけやすいためです。問題はほぼ一点、車体の腐食に集約されます。

  • ノーズ先端、前後フェンダー下部、床板と側面の合わせ目の腐食
  • 手仕上げゆえの造形の狂い。過去の板金修理で面が崩れていないか
  • 前後ガラス周りの水の回り込み跡
  • カブリオレの場合は幌の骨組みと、そこにつながる車体側の状態

外板が専用品で、しかも量産プレス部品として供給されていないため、腐食の修復には板金の技量と時間が必要になります。ここを見誤らないことが何より大切です。

ギアとカルマン、二つの名を持つ理由

車名は二つの企業に由来します。造形を担ったイタリアのカロッツェリア・ギアと、車体を製造したドイツの車体架装メーカー、カルマン。両者の名前を並べたところに、この車の成り立ちがそのまま表れています。

カルマンはフォルクスワーゲンのカブリオレ製造などを長く担った企業で、量産メーカーの手が回らない少量生産や特殊な車体を引き受ける役割を果たしてきました。カルマンギアは、その関係が最も幸福な形で結実した例と言えるでしょう。

よくある質問

Q. カルマンギアはスポーツカーですか

A. 姿はスポーツカーですが、機械部分はビートルと共通で、性能はおとなしいものです。スポーツカーの雰囲気を楽しむための車、と考えるのが実態に近いでしょう。

Q. タイプ14とタイプ34の違いは何ですか

A. 広く知られる丸みのある車体がタイプ14、より角ばった造形で上位の機構を用いたのがタイプ34にあたります。タイプ34は生産数が少なく、現存数も限られます。

Q. 維持は難しいですか

A. 機械部分はビートル系の部品が使えるため比較的容易です。難しいのは車体の板金で、専用の外板が手に入りにくいため、腐食の少ない個体を選ぶことが結果的に近道になります。

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Author of this article

クラシックカー専門ライター。自動車雑誌の編集部に12年在籍し、欧州車・国産旧車の取材を担当。独立後はイタリア・英国のクラシックカーイベント取材やオーナーインタビューを重ね、これまでに試乗・取材した旧車は300台以上。愛車はアルファロメオ ジュリア スーパー(105系)と、レストア中の国産旧車1台。「名車の物語を、次の世代に手渡す」をモットーに、スペックの羅列ではなく“そのクルマが生きた時代”まで伝える記事を心がけている。

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