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いすゞ ピアッツァ——ショーカーがそのまま走り出した、和製ウェッジの到達点

いすゞ ピアッツァ の外観

ショーカーが市販車になるとき、たいていの造形は現実に削られて丸くなります。いすゞ ピアッツァは、その常識をほとんど守らなかった一台でした。東京モーターショーに置かれた一台の夢が、ほぼその姿のまま販売店に並んだのです。

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面一ボディとサテライトスイッチという発想

ピアッツァの技術的な見どころは、まず車体表面の処理にあります。ガラスと外板の段差を極力なくす、いわゆる面一(つらいち)の仕立てを量産車で徹底したことは、当時の日本車としてきわめて先進的でした。空気の流れを乱す突起を減らし、塊としての美しさを保つ——このふたつを同時に満たす手法です。

室内では、ステアリングの左右に扇形のスイッチ群を配したサテライトスイッチが目を引きます。手をハンドルから離さずに主要な操作へ届く配置で、運転に集中させるための工夫でした。凝った造りゆえに経年での接点不良が起こりやすい部分でもありますが、この車の思想を最もよく表す装備と言えます。

「アッソ・ディ・フィオーリ」という原型

原型となったのは、ジョルジェット・ジウジアーロが手がけたショーカーです。クラブのエースを意味する名を与えられたその一台は、直線を基調にしながら冷たくならない、独特の穏やかさを備えていました。

いすゞはこの造形を量産に持ち込むにあたり、車台や機構は既存の小型車から流用するという現実的な判断をしています。夢の部分は徹底して守り、見えない部分は堅実にまとめる。限られた資源しか持たないメーカーが、それでも個性を世に問うための最良の選択でした。

同時代の国産スペシャルティの中で

1980年代前半の日本には、直線を強調した硬質なクーペが数多く生まれました。多くが直線と面の組み合わせで力強さを表現したのに対し、ピアッツァは面そのものの滑らかさで勝負しています。

性能面での絶対値では、より大きな排気量や高い出力を掲げる競合が存在しました。それでもこの車が記憶されているのは、造形が時代の平均から明確に離れていたからです。数字で測れない部分に価値を置いた車として、いまも独自の位置を占めています。

主要スペック

年式と仕様による差が大きいため、代表的とされる範囲を示します。

項目内容
車種区分2ドア・ファストバッククーペ
デザインジョルジェット・ジウジアーロによるショーカーを原型とする
エンジン形式直列4気筒。SOHCのほかDOHC、ターボ仕様も設定
排気量1.8〜2.0リッター級が中心
駆動方式初期型はフロントエンジン・後輪駆動
変速機5速マニュアルおよびオートマチック
内装の特徴ステアリング左右のサテライトスイッチ
足まわり後期の一部仕様にロータスが関与した設定あり
生産年1980年代初頭から1990年代初頭にかけて

コレクターズガイド:いま探すときに見るべき点

生産台数そのものは希少車と呼ぶほど少なくありませんが、良好な個体は年々減っています。造形を成立させている部分ほど、傷むと修復が難しいためです。

  • ガラスまわりのモールと接着部。面一構造ゆえ、雨漏りと腐食が同時に進む箇所です
  • サテライトスイッチの動作。接点や配線の劣化で機能しない個体があります
  • ダッシュボードの割れと内装樹脂の変形。専用部品のため代替が困難です
  • フロア、ホイールハウス内側、リアハッチ下端の腐食
  • エンジン形式と過給の有無。仕様差が大きいので現車確認が欠かせません

部品の再生産は限られますが、愛好家の間で情報が共有されており、修復の道筋自体は残されています。

いすゞという乗用車メーカーの記憶

いすゞは日本でもっとも古い歴史を持つ自動車メーカーのひとつです。今日ではトラックやバスの会社として知られますが、かつては乗用車部門を持ち、外部の一流デザイナーを積極的に起用することで独自の存在感を保っていました。

117クーペからピアッツァへと続く流れは、その姿勢の系譜そのものです。販売規模で他社に及ばないことを自覚したうえで、造形の質という一点で勝負する。ピアッツァは、その戦い方が最も鮮やかに実を結んだ例でした。

ロータスが仕上げた足が残したもの

後期には、英国ロータスが足まわりの調律に関わった仕様が設定されました。硬さで運動性能を得るのではなく、ばねと減衰の釣り合いで接地を保つという考え方が持ち込まれ、乗り心地を損なわずに動きを引き締めたと評価されています。

美しい車体に、走りの内容を後から与える——この後追いの努力は、いすゞが乗用車をあきらめる直前まで手を抜かなかった証しでもあります。ピアッツァは、その最後の輝きを宿した一台なのです。

よくある質問

Q. ショーカーからどのくらい姿が変わったのですか

A. バンパーや灯火類など法規に関わる部分は手が入りましたが、全体の輪郭とガラス面の処理は驚くほど原型に近いまま量産化されました。この忠実さこそがピアッツァの最大の見どころとされています。

Q. 後輪駆動と前輪駆動、どちらが正しいのですか

A. 初期のピアッツァは後輪駆動で、のちに登場した世代では前輪駆動の車台に移行しました。同じ車名でも成り立ちが異なるため、購入検討の際は世代の確認が必要です。

Q. いま維持するのは難しいですか

A. 機械部分は当時の量産部品を多く使うため対処の余地がありますが、内装や外装の専用部品は入手が難しくなっています。旧車に慣れた工場との付き合いが前提になると考えてください。

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Author of this article

クラシックカー専門ライター。自動車雑誌の編集部に12年在籍し、欧州車・国産旧車の取材を担当。独立後はイタリア・英国のクラシックカーイベント取材やオーナーインタビューを重ね、これまでに試乗・取材した旧車は300台以上。愛車はアルファロメオ ジュリア スーパー(105系)と、レストア中の国産旧車1台。「名車の物語を、次の世代に手渡す」をモットーに、スペックの羅列ではなく“そのクルマが生きた時代”まで伝える記事を心がけている。

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