1990年代の初め、イタリア・モデナ近郊のカンポガッリアーノに、真新しい工場が建ちました。実業家ロマーノ・アルティオーリが、途絶えていたブガッティの名を再興しようと試みたのです。その成果として世に出たのが EB110。創業者エットーレ・ブガッティの生誕110年を記念した名を持つ、異例づくめのスーパーカーでした。
3.5リッターV12に4基のターボという構成
EB110 の技術的な核心は、3.5リッターという比較的小さな排気量のV12に、ターボチャージャーを4基組み合わせた点にあります。1気筒あたり5本のバルブ、合計60バルブという緻密なヘッドを持ち、小径のターボを複数使うことで低回転からの応答性を確保しました。
さらに駆動方式は四輪駆動。当時のスーパーカーとしては珍しい選択で、大きな出力を路面へ伝えるための現実解でした。シャシーには航空産業で培われたカーボンファイバー構造が採用され、軽さと剛性を両立しています。出力は標準のGTでおよそ560馬力、軽量化を進めたスーパースポーツでおよそ610馬力とされました。
工場そのものに込められた理想
アルティオーリが構えたカンポガッリアーノの拠点は、単なる生産設備ではありませんでした。自然光を取り込む明るい作業場、広い緑地、そして働く人への配慮。ブガッティがモルスハイムで築いた「工房としての理想」を、現代の形で再現しようとしたものです。
造形についても曲折がありました。当初の案を手がけたのはマルチェロ・ガンディーニですが、最終的な生産型は建築家出身のジャンパオロ・ベネディーニによって整えられています。鋭さと丸みが同居した独特の姿は、この二段構えの経緯によるものです。
同時代のスーパーカーの中での立ち位置
EB110 が登場した1990年代前半は、マクラーレンF1、フェラーリのF40およびF50、ヤマハOX99-11といった意欲作が相次いだ時代でした。その中で EB110 は、大排気量の自然吸気でも軽量な後輪駆動でもなく、小排気量多気筒に多段過給と四輪駆動を組み合わせるという独自路線を選びます。
この構成は当時こそ複雑と見られましたが、電子制御と過給を前提とした現代のハイパフォーマンスカーの方向性を先取りしていたとも言えます。技術的な評価が後年になって上がった一台です。
主要スペック
仕様はGTとスーパースポーツで異なります。以下は代表的な値です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| エンジン形式 | V型12気筒 DOHC 60バルブ ターボ4基 |
| 排気量 | 約3.5リッター |
| 最高出力 | GT:約560馬力/スーパースポーツ:約610馬力 |
| 駆動方式 | 四輪駆動 |
| 変速機 | 6段マニュアル |
| シャシー | カーボンファイバー構造 |
| 生産年 | 1991年〜1995年ごろ |
| 生産台数 | 150台に満たないと伝えられる |
コレクターズガイド:短命ゆえの希少性
事業としてのブガッティ・アウトモビリは、1990年代半ばに資金面の行き詰まりから活動を停止します。生産期間はごく短く、完成した台数も限られました。この短命さが、結果として EB110 の希少性を決定づけています。
維持の面では、専用設計の部品が多いこと、電子制御とターボ4基を含む複雑な機構を理解する整備者が限られることが課題です。関心を持たれる場合は、まず整備履歴と、その車を継続的に見てきた工場の有無を確認することをおすすめします。近年は当時の関係者を中心に補修体制が整いつつあります。
ブガッティという名の重み
1881年生まれのエットーレ・ブガッティがアルザスのモルスハイムで築いたブランドは、グランプリでの圧倒的な戦績と、工芸品のような造り込みで知られました。第二次大戦後は自動車の第一線から遠ざかりますが、その名の値打ちが失われることはありませんでした。
アルティオーリの挑戦は、その名を単なる商標としてではなく、思想ごと受け継ごうとした点に意味があります。EB110 の細部に見られる過剰なまでの作り込みは、明らかにモルスハイムの流儀への敬意です。
その後のブガッティへ
ブガッティ・アウトモビリの活動停止後、ブランドはドイツの大手自動車グループの手に渡り、W型16気筒を積む超高性能車へと発展していきます。一方、カンポガッリアーノに残った技術者たちは、別の少量生産スポーツカーを世に送り出しました。
EB110 は、旧いブガッティと現代のブガッティをつなぐ橋のような存在です。イタリアで作られた唯一のブガッティという事実も含め、ブランド史の中で独特の位置を占めています。
よくある質問
EB110 という名前の由来は何ですか
エットーレ・ブガッティの頭文字と、その生誕110年を組み合わせたものです。発表も生誕記念の日に合わせて行われました。
GTとスーパースポーツの違いは何ですか
スーパースポーツは軽量化と出力向上を施した仕様で、内装の簡素化やカーボン部品の拡大などが行われています。
なぜイタリアで作られたのですか
再興を主導したのがイタリアの実業家であり、スーパーカー製造の人材と部品供給が集まるモデナ近郊が拠点に選ばれたためです。
現在も部品の入手は可能ですか
専用部品が多く容易ではありませんが、当時の関係者による支援体制が存在します。維持を考えるなら、その窓口とつながる工場に相談するのが現実的です。
