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ホンダ S800——8,000回転で歌う小さなDOHC、二輪の思想が四輪に渡った日

ホンダ S800 の外観

排気量は800ccに満たない。それでいて70馬力を発生し、タコメーターの針は8,000回転の先まで伸びていく。ホンダS800は、二輪車で世界一になった会社が、その考え方をそのまま四輪へ持ち込んだらどうなるかを示した一台でした。

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1リッターあたり90馬力に迫る高回転DOHC

S800の心臓は、800cc足らずの水冷直列4気筒DOHCです。当時の量産車としては異例の高回転型で、最高出力は8,000回転付近で発生しました。排気量あたりの出力に換算すると、1リッターあたり90馬力に迫ります。これは当時の量産エンジンとして際立った数字でした。

この性能を支えたのが、二輪車で培われた技術です。クランクシャフトの軸受けにころ軸受けを用い、各気筒に独立した吸気系を与える。回転を上げても壊れない構造をどう作るかという課題に、ホンダはすでに世界選手権の場で答えを持っていました。

チェーン駆動という、四輪では異例の構造

初期のS800には、四輪車としてきわめて珍しい機構がありました。左右の後輪をそれぞれチェーンで駆動する方式です。差動装置から伸びたチェーンケースが揺動アームを兼ね、後輪は独立して上下します。

二輪車の駆動方式をそのまま四輪に応用したような構造で、バネ下重量を軽くできる利点がありました。ただし整備の手間や騒音の問題もあり、後年の仕様では一般的な固定車軸へと改められています。実験的な発想が量産車に載った例として、いま見ても興味の尽きない部分です。

小さなオープンカーたちの中で

1960年代の小型オープンスポーツといえば、英国製のライトウェイトスポーツが世界の標準でした。S800はそれらに比べて排気量が小さく、代わりに回転で性能を稼ぐという別の道を選びました。

低回転のトルクで押す英国流に対し、高回転まで回して走るホンダ流。同じ「小さくて軽いオープンカー」でも、運転の作法はまるで違います。この違いこそが、S800が今も独自の位置を保っている理由です。

主要スペック

仕様変更があるモデルのため、代表的とされる内容を示します。

項目内容
エンジン形式水冷直列4気筒DOHC
排気量約791cc
最高出力約70馬力(8,000回転付近)
燃料供給気筒ごとの独立キャブレター
駆動方式フロントエンジン・後輪駆動
後輪駆動方式初期はチェーン駆動、のち固定車軸へ
変速機4速マニュアル
車体形式オープン2座(クーペも設定)
生産年1960年代後半〜1970年前後
生産台数1万台強とされる(諸説あり)

コレクターズガイド:小さな名車を選ぶ視点

S800は生産数がそれなりにあり、国内外に愛好家が存在します。ただし小型で軽い車ほど酷使されやすく、程度の差が大きいのが実情です。

  • 車体の腐食。フロア、フェンダー内側、幌の受け部周辺
  • チェーン駆動仕様の場合、チェーンケース周りの状態と整備履歴
  • DOHCエンジンの整備記録。高回転型ゆえ管理の質が寿命を左右します
  • 内装や幌の部品の欠品状況と、再生産品の入手可否

S500やS600といった兄弟車と部品を共有する部位もあり、シリーズ全体で情報が蓄積されている点は心強いところです。

二輪から四輪へ、本田宗一郎の挑戦

ホンダは二輪車メーカーとして急成長し、世界選手権で成功を収めたのち、四輪車へ進出しました。当時の日本では新規参入が歓迎されない空気もあり、その中での船出は決して平坦ではありません。

小型トラックとオープンスポーツという二本立てで四輪市場に入ったこと自体が、この会社の性格をよく表しています。実用の道具と、走る喜びのための道具。Sシリーズは後者を担い、S500からS600、そしてS800へと発展しました。この系譜はのちにS2000へと受け継がれます。

よくある質問

Q. なぜチェーンで後輪を駆動していたのですか

A. 二輪車で培った技術の応用であり、バネ下重量を軽くする狙いがありました。ただし整備性や騒音の面で課題があり、後年の仕様では一般的な固定車軸に改められています。

Q. S600やS500との違いは何ですか

A. 主に排気量の違いで、S500、S600、S800の順に大きくなります。基本的な設計思想は共通しており、高回転型のDOHCを積む点は変わりません。

Q. 現代でも普通に走れますか

A. 整備が行き届いていれば街中を走ることは可能です。ただし高回転型のエンジンは低回転域の余裕が小さく、現代の交通の流れの中では運転に慣れが必要です。

Q. S2000とのつながりはありますか

A. 設計上の直接的な継承関係はありませんが、高回転型エンジンを積む小型オープンスポーツという思想の面で、Sの系譜に連なる存在と位置づけられています。

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Author of this article

クラシックカー専門ライター。自動車雑誌の編集部に12年在籍し、欧州車・国産旧車の取材を担当。独立後はイタリア・英国のクラシックカーイベント取材やオーナーインタビューを重ね、これまでに試乗・取材した旧車は300台以上。愛車はアルファロメオ ジュリア スーパー(105系)と、レストア中の国産旧車1台。「名車の物語を、次の世代に手渡す」をモットーに、スペックの羅列ではなく“そのクルマが生きた時代”まで伝える記事を心がけている。

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